すごい映画を目撃してしまった。
『ロングデイズ・ジャーニー この夜の涯てへ』(2018)
いま中国系の映画が熱い! とは何度も口を酸っぱくして叫んで来たが、実はこの映画と出逢うための儀式だったのだ、と気づいた。
なんかネットとかを見ると、「中国新世代の若き鬼才ビー・ガン監督が誘う、後半60分間 驚異の3D・ワンシークエンスショット映像体験!」なんて文句ばかりが並んでいるが、はっきり言ってそんな判を押したようなキャッチフレーズではこの映画の核心を何も表現していない。
一人の男が、故郷に還った事をきっかけに、ある女の幻影を追いかけ始める。しかし彼は夢を視ているのか、現実なのか、次第に境が判らなくなってゆく・・・。
と書くと、いくらでも似たようなプロットの映画は過去に作られてきたと思われるだろう。実際に本作はウォン・カーウァイやタルコフスキーやデビッド・リンチといった監督名が列挙されながら紹介されるが、そのどれにも似ているようで、実はそうでない本作だけの「ルック」を持った映画だ。
初見時は、ここまで幻想的な映画だとは思っていなかったので、割と香り高いサスペンスかミステリーかと思っていたが、この主人公は時空が歪んだ中を彷徨っているのだと気づいたのは、ようやく後半のクライマックスに近づいている時だった。
ウウウウウム! もう一度観ないとワカランわい! というかもう一回観たい!
久々にそう思わせる映画だった。というか、私的・21世紀の心に焼きついた映画ランキングトップに躍り出たかもしれない。
この監督は、カメラを被写体と共に移動させながら何十分もの超長回しをするのが好きらしく、デビュー作の『凱里ブルース』(2015)でも41分に亘るワンカットのシークエンスがあるが、本作では後半60分がラストまで一気にワンカット(しかも次々と場所が移動してゆき、空中に浮かんで移動する描写まである)で描かれる。
と言っても、デジタル技術でいくらでも加工できるようになった現在、映画全編がワンカットという作品も珍しくない。『バードマン』(2014)しかり、『ヴィクトリア』(2015)しかり、『1917 命をかけた伝令』(2019)しかり。
しかし、こうした映画は大概、小手先のテクニックのひけらかし映画である。映画一本丸々をワンカットで描くというのは、すでにソクーロフが『エルミタージュ幻想』(2002)でやっているわけで、後発の連中は皆、このソクーロフの前例に倣っているだけだし、デジタル技術に頼っている部分も少なからずあるだろう。
しかし、『ロングデイズ・ジャーニー』のビー・ガン監督は、テクニックのひけらかしや遊び半分ではなく「長回しによって、観客の意識に異化効果をもたらす」・・・つまり、アンゲロプロスやタル・ベーラの映画の長回しに通じる、観客を異界へと誘うような幻惑的な演出を見事に現出させているのである。
しかも、これはどう観てもデジタル技術には頼っていない。
本作の舞台になる町は、今まであまり観た事のない独特の風景だ。彼は貴州省の出身だというので、おそらくはミャオ族やトン族といった少数民族の村落なのだろう。
経済の発展から取り残された地方と弱者たちの物語は、ほかにも多くの中国人監督が題材にしているが、ビー・ガン監督が選ぶロケ地は、時が止まったまま荒廃してしまったかのような、異界のような不思議な集落である。
廃墟のように視えて、それでも人が棲んでいる不思議な、隔離されたコミュニティ。この箱庭世界のような舞台設定がまた絶品としか言いようがない。
そして、主人公が迷い込んだ坑道の奥深くで、生まれることのなかった主人公の息子と思われる少年と卓球を繰り広げるシーンには、思わず目頭が熱くなった。ほかにも、自分と父親を捨てて男と駆け落ちした母が逃走する場に立会い、涙をこらえながら手を貸す描写も切なかった・・・こうした描写が、ひとつの流れの中で、あたかもアボリジニのドリームタイムのように、現在・過去・そしてありえたかもしれない未来が混在しながら描かれてゆく。映画はこうした表現ができるのだ!
デジタル技術の奴隷と化し、派手な見世物しか作れなくなり表現とはどういうものか忘れてしまったハリウッド映画の退化を尻目に、いま中国映画は世界のトップを独走している。
ビー・ガン監督のデビュー作『凱里ブルース』を観て興奮したジョナサン・デミは、本作を観ることなく逝ってしまった。
デミが、前作よりも遥かに進化し深化し、監督第2作にしてそのスタイルの完成の域に達した本作を観たら、どれほど感激したことだろうか。
日本でのDVD発売が楽しみでしょうがない作品と、久々に出逢った。もう何度も観まくってしまうだろうなぁ~。
Long Day's Journey Into Night [Blu-ray]
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購入オプションとあわせ買い
ジャンル | Drama |
フォーマット | 字幕付き |
コントリビュータ | Sylvia Chang |
言語 | 北京語 |
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登録情報
- アスペクト比 : Unknown
- 言語 : 北京語
- 製品サイズ : 1.78 x 19.05 x 13.72 cm; 0.37 g
- EAN : 0738329239107
- メディア形式 : 字幕付き
- 発売日 : 2019/12/17
- 出演 : Sylvia Chang
- 字幕: : 英語
- 販売元 : Kino Lorber
- ASIN : B07XJZQGD6
- ディスク枚数 : 2
- Amazon 売れ筋ランキング: - 144,470位DVD (DVDの売れ筋ランキングを見る)
- カスタマーレビュー:
他の国からのトップレビュー

TONY C
5つ星のうち5.0
A good purchase
2024年3月14日に英国でレビュー済みAmazonで購入
Bought as a present. Recipient very happy as chosen by them initially

John P.
5つ星のうち5.0
A Masterpiece
2020年6月29日にカナダでレビュー済みAmazonで購入
What else can be said when a film takes your breath away. Truly stunning!

Marius Voigt
5つ星のうち5.0
Tarkowski trifft auf Wong Kar-wai
2021年5月11日にドイツでレビュー済みAmazonで購入
Slow Cinema mit rauchenden Charakteren im Neonlicht. Bi Gans poetische Erzählweise macht diesen Film zu einem einzigartigen Seherlebnis.

Exene Cervenka
5つ星のうち5.0
No 3D but still good to watch.
2020年3月4日にアメリカ合衆国でレビュー済みAmazonで購入
I initially saw this at a film festival and was very happy to see it get a physical release as I was blown away by it when I first saw it. Yes, it doesn’t have the 3D part but still a very good movie regardless. That said it would be fabulous if this ever gets another release with the 3D because it’s used to great effect.

Marc Stenchever
5つ星のうち5.0
Amazingly simple yet complicated movie
2020年2月7日にアメリカ合衆国でレビュー済みAmazonで購入
I ordered this movie mostly because of what I'd heard about the 'one long shot' that makes up the second half of the film in 3D. I figured the plot would probably be really hard to follow. In a way, I was right. The first half IS hard to follow in that it bounces between flashback and the present, among other things. And then the second half starts and the first time I watched the movie, it struck me that several of the characters the lead character encounters were just strange in sort of an Eraserhead way, that is interesting, colorful, and outrageous, but for what purpose? I waited a week or so, and then watched it again. What I had thought was a simple movie of a guy looking for the one that got away, is much more nuanced, intricate, and interesting upon second and third viewing. What that revealed is that, in my opinion, at least, the characters in the second half are all related to the characters in the first half in some way. They are not them, but they are characters relevant to the people in the first half. For example, when during a first half flashback, the woman he is looking for says that she got pregnant and had an abortion, he sadly says he would have taught the son to play ping pong and other fatherly things. In the second half, he finds himself inexplicably, in a mineshaft and comes across a young boy living underground in a dark, scary room in the mine. The boy offers to help him find his way out to find the woman but only if he can beat the boy at ping pong. He wins through the use of a special serve. As the boy leads him out of the mine, he says he hopes to play ping pong with the man again, and maybe be taught this serve. Many of the characters in the two haves are connected in a way. And the end? Does he find the woman he seeks? Or someone else? Or does he know? I'll let you think about that after you watch this movie. Likely more than once. Tomorrow I'm going to watch it a third time. We'll see what I discover that time.